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Feature 2008:旅の記録
旅の記録(2008年)    特集の一覧 | この特集のトップ
JR夜明駅
JR久大本線、JR日田彦山線
観光路線の仮面、纏い
 JR久留米駅から私を乗せた赤い列車は、1両編成のワンマン列車ながら3ドア。ロングシートの通勤型車両からは、このJR久大本線が日田や由布院、天ヶ瀬といった温泉地を通り、「ゆふ高原線」の愛称がある観光路線とは思えない。両端に人口30万人の久留米、同50万人の大分市を抱える都市路線の横顔が覗く。
 気動車の割に加速良く発車した列車は、マンションも建ち並ぶ久留米市の郊外を駆け抜けていく。家族連れが多いかと思っていた車内は、意外と、スーツを着たサラリーマン風の男性や久留米大学前駅で乗り降りした若者が多い。私の斜め前には若いカップルがいて、男のほうが女の肩に顔を寄せて寝ていた。時刻は午後0時半。仲睦まじい老夫婦が乗ってきた。ロングシートを挟んで座り、何かを話している。汽車は様々な人生を乗せて走る。
 平野が続く筑後川水系の左岸を走ること約40分。ついに前面に山が押し寄せてくる。筑後大石駅を過ぎると、筑後川を渡り、トンネルが連続する。ワンマンカーのアナウンスが夜明に近づいたことを知らせ、視界がにわかに開けた。急峻な地形に四方を囲まれた夜明駅に到着。
 着いた列車はしばらく夜明で止まっていた。このディーゼル特急「ゆふいんの森」が日田から久留米方面へ走り抜けるための待ち合わせ。単線区間ならではの風景だ。
 ゆふいんの森は4両編成。車内から手を振る子どもの姿が見えた。なるほど、家族連れはロングシートの普通列車は使わず、特急で目的地を急ぐのだ。夏休み中でもあり、久大本線は臨時の特急も運転されていた。
夜明の名につられ
 夜明駅は2面3線という構造をしている。プラットホームが2面あり、そこに3つの線路が通う。駅舎併設の1番ホームは久大本線の久留米行きが止まる。2番ホームと3番ホームは跨線橋を渡って向かい側で島のようになっており、2番ホームが久大本線の日田・大分行き、3番ホームには日田彦山線を通る全ての列車が止まる。
 ゆふいんの森が通過してからしばらくして、1番ホームに、大型の電光掲示を付けた久留米行きの普通列車が到着した。
 夜明駅。久留米から見れば東に位置し、確かに朝日が昇ってくる位置にある。しかし、山に囲まれたこの地は、久留米から直線で見渡すことはできず、日田盆地とて西の端からさらに山一つ離れている。地形が夜明の名を付けたというわけではなさそうだ。
 古代、天皇の行幸の折、当地で朝を迎えたため夜明という駅名が付いたという説など、由来には諸説あるようだ。Wikipediaには焼き畑に由縁するという説も紹介されているが、日本には皇室由来の地名がいくつも存在しているゆえ、前者の方がしっくりきそうだ。それが事実であろうと、創作であろうと、ロマンチックな響きにふさわしい。
 駅舎に自動券売機はないが、駅の階段を下りたところに商店が一つあり、そこで切符を売っている。昔は硬券とよばれる厚手の切符を売っていたのだと思われるが、今は、ミシン目入りメモ用紙のような綴りに印刷された切符を、回数券のように切り取って、改札スタンプを押す。古い商店で、私が行った時は奥から感じの良い老婦人が出てきて切符を切り取り、スタンプを押した。このスタンプは車掌が検札時に押したり、まだ自動改札ではない駅で駅員が押したりするタイプのもので、年季の入った店の中で異彩を放っていた。
 縁起の良さそうな夜明駅の響きにつられて訪れる人は少なくない。私もその一人で、お守りみたく買った切符だったが、「夜明駅」が“印字”されている切符ではなかった。スタンプでかろうじて夜明駅発だと分かるもので、些かの落胆は否めない。だが、スタンプで押された駅名は、当地でしか買えないものであり、印刷と違って全く同じものがない。しっかりとスタンプを押してくれた老婦人の人情が伝わってくる。夜明駅に来たという何よりの証左であった。
Gallery
 夜明駅舎
 場内信号機
 駅の日田寄りには切り立った崖(切通し)がある
山あいの乗り換え駅
 久留米方面を見ると、右側の線路が、3番ホームともども右へカーブしていっている。日田彦山線だ。
 久大本線が両端駅の久留米と大分の頭文字を取って名付けられているのとは違い、日田彦山線は、沿線の主要地である日田と彦山の名前が冠されている。同線の起点はJR日豊本線から分かれる北九州市の城野駅であり、終点はこの夜明駅だが、城野からは日豊本線に乗り入れて小倉まで、夜明からも久大本線を通って日田まで運転されている。かつては添田線、日田線などと呼ばれていたが、全通後、いまの名前となった。城野−夜明間で最大の都市は田川市だがその名前が使われていないのは、田川線が別に存在するためだろう(国鉄田川線、現・平成筑豊鉄道同線)。
 余談だが、日田彦山線は「ひた・ひこさんせん」と区切って読むのが本来あるべき読み方だが、ほとんどの人が「ひたひこ・さんせん」と読んでしまう。これは日本語発音がそうさせるのもあるが、実は、小倉駅に乗り入れる全ての路線が8文字というのも「さんせん」が分離してしまう要因かもしれない。「鹿児島本線(かごしま・ほんせん)」、「日豊本線(にっぽう・ほんせん)」、「山陽本線(さんよう・ほんせん)」。そして「日田彦山線(ひたひこさんせん)」。地名プラス四文字の「ほんせん」という組み合わせは、容易に、「ひたひこ・さんせん」にさせよう。
 夜明駅に幼な子をつれた男性が入ってきた。跨線橋をゆっくりと渡ると、2・3番ホームにあるベンチに腰を下ろした。はじめは汽車を見せに立ち寄ったのかと思ったが、リュックサックを背負っており、ドライブや散歩のついでに駅に寄ったのではなさそうだ。
 そうこうしているうちに黄色いワンマン列車が到着。日田彦山線の田川後藤寺行き。親子が乗り込み、私も後に続いた。
 日田彦山線はこのあと日田市の西縁を通り、福岡県東峰村へ。直線の長大トンネル「釈迦岳トンネル」に入り、田川へと向かう。乗り換えを含めて城野・小倉方面へ直通する列車は一日にわずかに10本。黄色いワンマンカーも前後にドアがあるだけで、座席もボックス型。久大本線とは違う、ローカル線の雰囲気が漂う。
 夜明の駅を小一時間ばかり堪能し、黄色い列車に乗って、山あいの乗り換え駅を後にした。
 久大本線で私と同じ列車に乗って夜明駅で降り、「ゆふいんの森」や駅の写真を撮って、私の後からまた同じ日田彦山線に乗った青年がいた。彼は一眼レフを持っていたから、きっと立派な写真を撮っていたのだろう。
 せっかくの写真の風景に私が入り込むとまずいと思い、夜明駅では、なるべくファインダーに入らないように注意していた。
 彼は、私の予想通り、筑前岩屋駅で降りた。駅は釈迦岳トンネルの目の前。トンネルから出てくるキハ47(147)は絵になる
 私はというと、車内から筑前岩屋駅に向けて、コンパクトデジカメでパシャリ。いいカメラがほしいものだ。

 夜明駅。
 旅は過程にドラマがある。

沿線情報
■夜明駅へのアクセス
【小倉から】JR日田彦山線で直通列車もしくは田川後藤寺乗り換えで約10往復
【博多から】JR鹿児島本線久留米駅で久大本線に乗り換え(「ゆふいんの森」などの特急は夜明には止まりません)
【車】田川方面からの国道210号は「夜明三叉路」を左折、久留米方面からの国道211号は「高井町」で赤い色の夜明大橋を渡り、右折。夜明駅前に数台の駐車スペースあり
■駅の設備
【お手洗い】なし (夜明駅に停車する日田彦山線の全列車と、久大本線のほとんどの列車にトイレ設備あり)
【飲料水の自動販売機】数台が駅前にあり
■その他
【きっぷの取り扱い】駅前の商店で発行しているが、必ずしも乗車前に購入する必要はない。夜明駅着時の運賃の支払いは、ワンマンカーの場合は運転士横の運賃箱に投入(路線バスと同じ)、車掌乗務の場合は車掌に渡すか駅舎に備え付けの運賃投入箱(写真)へ。夜明駅から乗車する際は、ワンマンカーの場合は路線バスと同じで整理券を取って乗車。車掌がいる場合は車掌から切符を購入できる。夜明駅の入場券や記念きっぷはない。駅前の商店で購入できる切符は200円(小児100円)から。
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