kbst.net 2009|新春特集
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政治のダイナミズム
 アジア諸国が抱える問題は少なくない。貧困、教育、環境はもちろん、政治機構にも改革が求められることもある。

 賄賂と腐敗が政治を牛耳っている国があり、まともな経済活動を行う障壁になっている。独裁政治の弊害だと言えるが、一人の人物があらゆる政治権力を握って居座ることはもちろん、たとえ選挙を行っていても政権が長期にわたって変わらなかったり、軍部が政治の中枢に大きく介入していたりすると、政治は持ち得ているべき流動性を失う。
 経済の混迷、新たな労働・医療問題に対して機動的に動けなくなり、それが近隣諸国へ伝播することもある。

 タイでは元首相のタクシンが国を追われた。汚職が理由の失脚だった。人気のある首相であっても、政治腐敗や汚職でその座を奪われるのは、民主政治としては当然のことだったかもしれない。しかし問題は、タクシンからの交代劇がクーデター(2006年)によって幕を開け、軍部が実権を握ったこと。
 軍部は民主選挙の早期実施を掲げ、07年には再びタクシン支持派のサマックが政権の座についた。ところが08年、サマック政権に反対する市民のデモ行動が激化。バンコクの新旧国際空港を占拠し、社会に大きな混乱を来すまでになった。12月に再選挙が行われ、民主党のアピシットが選任。タクシン支持派は下野したが、タクシン支持派がデモを起こす可能性は少なくない。

 タイは政治に行き詰まるとクーデターが起きやすいという政治土壌がある。たびたび軍部が首をもたげてクーデターを起こしていたのでは、外国からの投資や観光面での影響は計り知れない。東南アジアの主要国でもあり、国際的な信用失墜は避けるべきだ。
 この国では、それでも、信頼される国王がおり、市民も選挙への関心は高い。それゆえ選挙の正当性の確保が求められる。政治においては、いち早く己の清廉さを取り戻して信用を得、民意をどう掬(すく)い取っていくかが重要課題だ。

 日本はいま、与野党のねじれの中で民意なき政治が延々と続き、国民は選挙を今か今かと待ち望んでいる。幸いにして現代日本では選挙制度への信頼は厚く、その結果が不当だと訴えることはほとんどない。任期が満了すれば必ず選挙が実施されているが、選挙不信がひとたび起これば、政変が起きても不思議ではない。政治情勢は緊迫している。

 混迷したタイを眺めて、日本とは無縁だと片付けられるものだろうか。政治が機能を果たせないとき、その国でもっとも政治を動かすことのできる手段。誰が首相になるのか、どの政党が与党になるのか、そういった皮算用と駆け引きが求められているわけではない。


■この記事の関連ページ
・外務省 各国・地域情勢-タイ王国(http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/area/thailand/

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