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Column
わたしの時代
弾丸列車
2008年06月12日(木)
新幹線は夢の超特急といったらしい。

くす玉を割って丸鼻の0系を送り出していくモノクロ写真を見たことがある。東京オリンピック直前の1964年10月に東京―新大阪間が開通し、75年には九州まで全通した。新幹線の完遂は、大都市間の時間距離が大幅に縮まった瞬間だった。

私にとっての新幹線の記憶は「グランドひかり」に始まる。東京に生まれた祖母は毎夏、祖父とともに大都会の喧噪に出歩くのを楽しみにしていた。幼い頃、何度かその旅についていったが、グランドひかりの乗り心地が良いのか二人はのぞみ号が出ても「やっぱりひかりがいい」と言っていた。

丸鼻を伸ばしたスマートな印象の100系がグランドひかりに使われていたが、現在は0系とともに短編成のこだま号となって余生を送っている。後に出てくる300系、500系、700系の各新幹線に追い抜かれる様は、新幹線に胸ときめいた人にとって、特別な感慨を抱くかもしれない。

すでに新幹線が日常の足となっていた時代に生まれた私が、唯一新幹線で興味を惹かれたのが90年代後半に登場してきた500系だ。新幹線といえば白と青というイメージを突き破ったカラーリングもさることながら、その奇抜かつ延々と続くノーズ(もはや鼻という日本語を超えている)には度肝を抜かれた。空気抵抗を抑えるため、パンタグラフは鳥からヒントを得てデザインしたのだとテレビで流していた。すごいものがやってきた。

新幹線を英語でブリットトレイン(Bullet Train)とも言う。何かのついでにその単語を辞書で見つけたときはそんな言い方もあるんだと気にもとめていなかったが、学生の時分、小倉駅にノーズを自慢げに――鼻高々と入線してきた500系を見て、ブリットという単語が生き生きとよみがえってきた。弾丸列車。その名の通りの姿ではないか。夢の超特急に銃弾を意味するBulletを充てた人の感性に恐れ入ったし、もし私が500系に名前を付けろと言われたら、弾丸を思い浮かべるとも思った。

そんな弾丸列車は700系の台頭でこだま号に格下げになるという。16両編成の両端部に乗客用のドアがないことや、“弾丸”の中の居心地の問題から長距離移動にはストレスなのだそうだ。翻って700系はスピードを落とすことなく居住性に優れた車両になった。ただ、見た目はカモノハシかカモか、ワニ。

夢の超特急。その言い方を私は昭和に触れた文章の中でしか見つけることはない。九州から東京を飛行機並みの速さで駆け抜ける新幹線が出来たりするのだろうか。そうしたらまた夢の超特急などという言葉が復活してきて、万歳をして、くす玉を割ったりするのだろうか。東京は適度に遠くていいと思う。

(2008年6月4日)

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